2022.11.27 Sun
MVPアーロン・ジャッジのコーチ
1.今年の大リーグのアメリカン・リーグのシーズンMVPにはリーグ新記録の62本塁打を放ったニューヨーク・ヤンキースのアーロン・ジャッジ選手が選ばれました。 11月16日付け朝日新聞デジタルに『大谷翔平とMVP争うジャッジが覚醒した裏側 新記録を支えたコーチ』という記事が出ていました。 番号を付けて紹介します。
『彼の打撃を支えた一人、個人コーチのリチャード・シェンクさんに飛躍の背景などについて聞いた。
①――ジャッジとの出会いは。
「彼の代理人であるデービッド・マトランガ氏が現役時代、自分に教わりに来ていた。 ジャッジが打撃で困っていた2016年11月、一緒にやってみないかと連絡をもらったんだ」
「最初は1日2回の練習を1週間ぐらいやった。 これだけのレベルの選手を教えるのは初めてだから、とても緊張したよ」
「彼が経験したことのないメニューをいくつか与えて、飽きさせないようにした。 彼はすごく注意深くて、一生懸命取り組んでいたのを覚えている」
②――指導するきっかけは。
「私はミズーリ州セントルイス近郊で飲食店を経営している。 ビリヤードテーブルが17台ある店で、始めて34年になる」
「息子が2人いてね。 高校や大学で野球をしていた。 でもうまく打てなかったので、私がインターネットを使ってスイングを勉強することにしたんだ」
「色々なサイトで研究したけど、しっくりこなかった。 そこで、当時大活躍していたバリー・ボンズ(主にジャイアンツ)をまねすることにした。 完全再現。 地下室にこもって、映像を止めながら何度も何度もボールを打ったよ」
③――難しそうですが、大リーグ歴代最多762本塁打のボンズ氏を選んだ理由は。
「間違いなく最高の打者だったし、自分と同じ左打ちだったから。 彼が打席で何をしているのか、動きを分解して研究した」
「そうしたらある理論に気づいてね。 今までにない力がスイングについた。 それを息子2人に教えたら、プロには届かなかったけど、成功と呼べる野球人生を送れたんだ」
④――今ではジャッジが理論を取り入れた。
「そう。 気に入ってくれたみたいで、2017年1月にまた1週間ほど一緒に練習して、3月には春季キャンプにも数日呼ばれた」
「シーズン開幕後は、打撃の修正が必要になると連絡がきた。 ニューヨークやデトロイト、シアトル……。 会いに行って施設を貸し切りにして練習した」
⑤――そして契約した。
「実は具体的な契約書というのはなくて、今もない(笑)。 でもこうやって関係が6年ほど続いている」
⑥――打撃で最も重視しているポイントは。
「一つ目の基本が始動するポイントだ。 ボンズを見ていると、彼はバットを捕手の方向にまず倒す。 すごく興味を持って試し続けてみると、遠心力によって足が回転し、自然とボールに向かう形になった」
「二つ目の基本が重心だ。 打席内で軸足(捕手よりの足)から投手に近い足へ体重移動するイメージがあるかもしれないが、打つ瞬間はまだ重心は軸足に乗ってないといけない」
「ジャッジは練習するうちにどんどん上達したよ」
⑦――今季、62本塁打を打つと思いましたか。
「一緒に練習した最初の年、彼は年間52本塁打を放って新人王をとった。 驚きはない。 でも、当時は打撃フォームが全く安定していなくて、安定すればもっと打てると信じていた。 正直、今季の打ち方を見てもまだ上達できるとみている」
⑧――今季は例年と違う調整だったとも聞いた。
「過去の5年間は、彼の調子が落ちてきたら呼ばれた。 10日間とか2週間ついて修正した」
「でも、今年は最初からスケジュールを割り当て、定期的に修正するようにした。 1年間調子が落ちないことを祈りながら。 そうしたらとてもいいシーズンを過ごした。 体の使い方やスイングがもっと理解できてきたと思う」
⑨――今季、苦しんだとみえた時期はあったか。
「シーズン中盤かな。 相手が警戒してストライクを投げず、四球は仕方がないと割り切ってボール球中心に攻めてきた」
「でも比較的ずっとよかった。 あるときは自分が直すところがないほど調子がよくて、行く必要あるかなと携帯でメッセージを送ったら 『来てくれ。 スケジュール通りやろう』 って言われた」
「新記録を達成してすごく誇らしかったし、うれしかったよ」
⑩――ジャッジは身長2メートルの選手です。 体が小さくても打てますか。
「私はバットスピードを上げるのではなく、ボールをとらえるまでの速さ、加速する方法を教えている。 誰でもそれなりに備わっているものだ。 毎回本塁打でなくとも、二塁打とかは打てるようになるはずだ」
「それにボンズの打ち方が理解できるようになるうちに、すごい打者、プホルス(カージナルス)やイチロー(主にマリナーズ)、大谷との共通点が見つかった。 構え方や打ち方は違っても、ボールをとらえる方法が共通していたんだ」
「日本の野手も大リーグで本塁打を量産できる。 私は王貞治さんの一本足打法の本を読んだし、軸足で打つように教えるのは一緒だ。 あとはバットをどう操るか。 そこを手助けすればきっと上達すると思う」
⑪――ジャッジの活躍で、反響は。
「おかげさまで、本当に毎日が忙しくなった。 電話が鳴りっぱなしだよ」』
2.この記事には、次のような組手技術の工夫・習得のヒントが隠されています。
㋑映像を見て研究する(上記②)
㋺動きをまねするモデルを決めたら、完全再現する(上記②)
㋩映像を止めながら、何度も何度も繰り返すうちに、何らかの理論に気づく(上記③)
3.一番驚いたのは、野球は素人の飲食店経営者が、自分の子どものために創意工夫し、その理論がプロのスーパースターを指導するまでになったことです。
この記事を読んで、今のチーム城西の私も含めた指導陣と選手自身双方の創意工夫に対する、熱意と努力が、まだまだ足りないなと感じました。
『彼の打撃を支えた一人、個人コーチのリチャード・シェンクさんに飛躍の背景などについて聞いた。
①――ジャッジとの出会いは。
「彼の代理人であるデービッド・マトランガ氏が現役時代、自分に教わりに来ていた。 ジャッジが打撃で困っていた2016年11月、一緒にやってみないかと連絡をもらったんだ」
「最初は1日2回の練習を1週間ぐらいやった。 これだけのレベルの選手を教えるのは初めてだから、とても緊張したよ」
「彼が経験したことのないメニューをいくつか与えて、飽きさせないようにした。 彼はすごく注意深くて、一生懸命取り組んでいたのを覚えている」
②――指導するきっかけは。
「私はミズーリ州セントルイス近郊で飲食店を経営している。 ビリヤードテーブルが17台ある店で、始めて34年になる」
「息子が2人いてね。 高校や大学で野球をしていた。 でもうまく打てなかったので、私がインターネットを使ってスイングを勉強することにしたんだ」
「色々なサイトで研究したけど、しっくりこなかった。 そこで、当時大活躍していたバリー・ボンズ(主にジャイアンツ)をまねすることにした。 完全再現。 地下室にこもって、映像を止めながら何度も何度もボールを打ったよ」
③――難しそうですが、大リーグ歴代最多762本塁打のボンズ氏を選んだ理由は。
「間違いなく最高の打者だったし、自分と同じ左打ちだったから。 彼が打席で何をしているのか、動きを分解して研究した」
「そうしたらある理論に気づいてね。 今までにない力がスイングについた。 それを息子2人に教えたら、プロには届かなかったけど、成功と呼べる野球人生を送れたんだ」
④――今ではジャッジが理論を取り入れた。
「そう。 気に入ってくれたみたいで、2017年1月にまた1週間ほど一緒に練習して、3月には春季キャンプにも数日呼ばれた」
「シーズン開幕後は、打撃の修正が必要になると連絡がきた。 ニューヨークやデトロイト、シアトル……。 会いに行って施設を貸し切りにして練習した」
⑤――そして契約した。
「実は具体的な契約書というのはなくて、今もない(笑)。 でもこうやって関係が6年ほど続いている」
⑥――打撃で最も重視しているポイントは。
「一つ目の基本が始動するポイントだ。 ボンズを見ていると、彼はバットを捕手の方向にまず倒す。 すごく興味を持って試し続けてみると、遠心力によって足が回転し、自然とボールに向かう形になった」
「二つ目の基本が重心だ。 打席内で軸足(捕手よりの足)から投手に近い足へ体重移動するイメージがあるかもしれないが、打つ瞬間はまだ重心は軸足に乗ってないといけない」
「ジャッジは練習するうちにどんどん上達したよ」
⑦――今季、62本塁打を打つと思いましたか。
「一緒に練習した最初の年、彼は年間52本塁打を放って新人王をとった。 驚きはない。 でも、当時は打撃フォームが全く安定していなくて、安定すればもっと打てると信じていた。 正直、今季の打ち方を見てもまだ上達できるとみている」
⑧――今季は例年と違う調整だったとも聞いた。
「過去の5年間は、彼の調子が落ちてきたら呼ばれた。 10日間とか2週間ついて修正した」
「でも、今年は最初からスケジュールを割り当て、定期的に修正するようにした。 1年間調子が落ちないことを祈りながら。 そうしたらとてもいいシーズンを過ごした。 体の使い方やスイングがもっと理解できてきたと思う」
⑨――今季、苦しんだとみえた時期はあったか。
「シーズン中盤かな。 相手が警戒してストライクを投げず、四球は仕方がないと割り切ってボール球中心に攻めてきた」
「でも比較的ずっとよかった。 あるときは自分が直すところがないほど調子がよくて、行く必要あるかなと携帯でメッセージを送ったら 『来てくれ。 スケジュール通りやろう』 って言われた」
「新記録を達成してすごく誇らしかったし、うれしかったよ」
⑩――ジャッジは身長2メートルの選手です。 体が小さくても打てますか。
「私はバットスピードを上げるのではなく、ボールをとらえるまでの速さ、加速する方法を教えている。 誰でもそれなりに備わっているものだ。 毎回本塁打でなくとも、二塁打とかは打てるようになるはずだ」
「それにボンズの打ち方が理解できるようになるうちに、すごい打者、プホルス(カージナルス)やイチロー(主にマリナーズ)、大谷との共通点が見つかった。 構え方や打ち方は違っても、ボールをとらえる方法が共通していたんだ」
「日本の野手も大リーグで本塁打を量産できる。 私は王貞治さんの一本足打法の本を読んだし、軸足で打つように教えるのは一緒だ。 あとはバットをどう操るか。 そこを手助けすればきっと上達すると思う」
⑪――ジャッジの活躍で、反響は。
「おかげさまで、本当に毎日が忙しくなった。 電話が鳴りっぱなしだよ」』
2.この記事には、次のような組手技術の工夫・習得のヒントが隠されています。
㋑映像を見て研究する(上記②)
㋺動きをまねするモデルを決めたら、完全再現する(上記②)
㋩映像を止めながら、何度も何度も繰り返すうちに、何らかの理論に気づく(上記③)
3.一番驚いたのは、野球は素人の飲食店経営者が、自分の子どものために創意工夫し、その理論がプロのスーパースターを指導するまでになったことです。
この記事を読んで、今のチーム城西の私も含めた指導陣と選手自身双方の創意工夫に対する、熱意と努力が、まだまだ足りないなと感じました。