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2022.07.24 Sun
チームづくりは時間との戦い
ラグビーの元・日本代表キャプテン、横井章さんが書かれた『継承と創造』(ベースボール・マガジン社)を読みました。 「チームづくりは時間との戦いである」の項から抜粋し、番号を付けて紹介します。
『①「時間」には限りがあります。 だから目標とする試合や大会までの限られた時間の中で、強敵に勝つための自分たちのラグビーをつくり上げるマネジメントが大事になります。 どれほど素晴らしい戦術を考案したとしても、ターゲットの試合までに完成しなければ意味がありません。
②そして現代のチームと選手は、その「時間」が極めて短くなっています。 (中略) ですから、戦術戦略を絞り込み、無駄な練習を極力省いて必要最小限のメニューに集中的に取り組む効率性が大事になります。
③時間が無限にあるのなら、いくらでも練習して強くなることができます。 しかし、大半のチームは、そうした環境にはないはずです。 そうであれば、限られたわずかな時間の中でやりくりを工夫し、特化した戦い方をミスなくできるように磨き上げるしかありません。
④(中略) 自分たちができること、自分たちがしなければならないことを理解し、必要最小限のことに焦点を絞って、そこにすべての時間をかけて徹底的に強化しなければなりません。 持たざるチームが持つチームを倒すには、そうして最短距離で差を縮めていくしかありません。 逆に言えば、ラグビーで強いチームをつくるためにはそれだけ時間がかかるということです。 (中略)
⑤本当に必要なことを峻別し、どんな相手に対しても100パーセント遂行できるよう、徹底的に強化して磨き上げなければなりません。 その道筋をつけることがコーチの仕事であり、コーチングの醍醐味であると私は思います。 (中略)
⑥時間は万人にとって平等です。 だからこそ他人より一歩先んじるためには、「いかに時間を使うか」という工夫が鍵になります。 チームで集まれる時間が限られていても、それ以外の時間に1人でトレーニングすることはできます。
⑦家にいる時間でも、もっと言えば通学の時間でもやれることはいくらでもあります。 そうやって選手1人1人が成長しつつ、全員で集まれる時はチーム練習に特化して取り組むようにすれば、同じ時間でも成長度は全く違ってきます。
⑧そしてそのためには、個々の選手が自分に必要なものを理解し、何をしなければならないかを考えられるようにならなければなりません。 (中略) 時間がないことを理解し、自分なりに考えて行動できるよう選手を促していかなければいけません。 そうしたアプローチが、今の指導者には求められていると思います。』
私が指導している選手稽古の時間は長いほうだと思います。 それでも、指導したいことを全て盛り込むには時間が足りない、といつも感じています。
ちなみに道場に掲げている「城西のチームカルチャー」は、①どこよりも創意工夫する、②どこよりも練習する、③どこよりもそれらを楽しんでやる、の三点です。
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2022.07.17 Sun
思春期不器用
7月12日の日経新聞夕刊に『「思春期不器用」知っておこう』という記事が載っていました。 番号を付けて紹介します。
『①身体が大きく成長する思春期に、スポーツの成績が一時的に落ちるケースがあるという。 「スランプか?」と悩む子どもや保護者もみられるが、スポーツトレーナーの遠山健太さんは「思春期不器用」という現象の可能性を指摘する。 練習量を増やすとけがのリスクがあり、注意が必要だ。 知っておくべきポイントを助言してもらった。
②「なかなか調子が上向かない選手がいるんだ」。 全日本スキー連盟のフリースタイルスキーチームでトレーナーを務めていた2010年代、ジュニア選手のコーチからこうした相談を持ちかけられた。 スキー操作やエアの技術の習得が進まないという。
③練習へ向き合う姿勢は真剣で、生活習慣にも変化はないが、競技成績が落ちていく。 コーチも本人も「原因が分からない」という。 持久力や柔軟性、筋力についてテストしたところ、以前と比べ伸びがみられず、むしろ数値が下がった項目もあった。
④それまでジュニア選手の指導経験が少なく、私も困惑したが、調べてみると発育発達学の分野で「思春期不器用」と呼ばれる現象と似ていると分かった。 体への負荷が少ない柔軟性や持久力のトレーニングに切り替えたところ、自然と高いパフォーマンスを発揮できる状態へ戻っていった。
⑤思春期不器用は、身長が急速に伸びる「成長スパート期」に身体のバランスがとりにくくなったり、動きがぎこちなくなったりする現象を指す。
⑥海外では1930年代から様々な調査・研究が行われてきた。 日本でもジュニア時代からのトップ選手育成が盛んになり、関心が高まりつつある。
⑦原因として ▽体の急速な発達に感覚器の適応が追いつかない ▽骨が伸びることで柔軟性が低下する――といった指摘がある。 過去の研究では、あるグループへの調査で成長スパート期に運動能力が停滞することが確認された。
⑧一方、詳しい原因は分かっていない。 同様の現象が明確にはみられなかったとする指摘もある。 メカニズムの解明にはさらに時間がかかるだろう。
⑨子どもがスポーツ教室や部活動に打ち込んでいる保護者に留意してほしいのは、思春期不器用の現象は練習量を増やすことでは解消されないという点だ。
⑩講演などで、子どもがサッカーや野球のスポーツ少年団に入っている保護者から「急に成績不振になったので、居残りで猛練習している」 「急にレギュラーから外され、本人がひどくふさぎ込んでいる」といった声を聞くことがある。
⑪運動能力の伸び悩みが成長スパート期と重なっている場合、思春期不器用の可能性がある。 この場合に負荷が強すぎるトレーニングをすると、まだ未熟な骨や関節を負傷する恐れが強まる。 運動量や時間を増やしたり、強度を高めたりするのは禁物だ。
⑫また思春期不器用は成長スパート期が終われば自然と解消される。 スポーツの成績が一時的に伸び悩んだとしても精神的に大きく落ち込む必要はない。 保護者は「いずれ上向くよ」と長い目で見て子どもに寄り添ってほしい。
⑬思春期不器用の可能性があるかどうかを把握するためには、家庭で「成長曲線」と呼ばれるグラフを作る方法が効果的だ。 定期的に身長の伸びを線で結んだグラフで、傾きが最大の時期が成長スパート期にあたる。 この時期に不振に陥れば「もしかしたら」と原因を探りやすい。
⑭一方、日本では本格的に研究が始まって間もない分野のため、部活動やスポーツ少年団の指導者にも広く伝わっているとは言いがたい。 部活動の顧問を務める教員向けの講演でも思春期不器用について説明すると「なんですかそれは」と驚く声が多い。
⑮話をうかがうと、チームの中心だった選手が不調になり「なぜだろう」と首をかしげる経験をした指導者は少なくないようだ。
⑯思春期不器用の子どもがいる可能性も踏まえて、部活動やスポーツ少年団では発育状況に応じ、全体練習に加え個別のトレーニングメニューを取り入れてほしい。 全員が同じ内容の筋力トレーニングをした場合、一部の選手には負荷がかかりすぎている恐れがある。
⑰部活動に携わる教員からは「一人ひとりの状況に応じてメニューを組むのは難しい」という声もよく聞かれる。 指導方法に悩んだ場合には、日本スポーツ協会公認のアスレティックトレーナーの資格保有者に相談するのもいいだろう。
⑱思春期不器用の影響かどうかは不明だが、思春期の子どもたちはスポーツ中の外傷・障害が多い傾向がある。 中には長期的に競技に支障をきたすケースもある。 生涯にわたりスポーツを楽しむためにも、子ども時代の運動は安全性を最優先としたい。』
空手の指導をするようになって、もうすぐ44年になりますが、「思春期不器用」という言葉を初めて知りました。
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2022.07.11 Mon
老年的超越
1.前回のブログで、『第三次世界大戦はもう始まっている』(エマニュエル・トッド著)から以下の文章を紹介しました。
『①(前略)この地図からは、「核家族社会(父権性が弱い)」と「共同体主義的父権制社会(父権性が強い)」の間に位置する「人類学的な中間地帯」があることも見えてきます。 その代表例が「直系家族社会」のドイツと日本です。
②ドイツと日本は、「西洋」に共通する核家族社会よりも父権的な社会です。 人類学者として私は、ドイツと日本、特にドイツは「西洋の国(核家族社会)であるふりをしてきたのだ」と考えています。 (中略)
③いずれにせよ、ドイツと日本が「西洋世界」に所属している(=西洋の国であるふりをしている)のは、人類学的な基礎によるのではなく、ともに第二次世界大戦で敗北してアメリカに〝征服〟されたことによります。』
2.最近読んだ『実践 ポジティブ心理学』(前野隆司著 PHP新書)にも似たような記述があったので、「幸せのための五つの条件」の項から抜粋し、番号を付けて紹介します。
『①(前略)というのは、日本というの国は私たちが思っているほど東洋的ではないからです。 東南アジア諸国は日本よりもずっと集団主義的で、田舎のほうに行けば行くほど、個人の夢や目標よりも、毎日きちんとご飯が食べられて家族みんなが平穏無事に生きていくことのほうが幸せだと考える人が増えます。
②一方で、アメリカやヨーロッパは個人主義的です。 家族は大事だけれど、たとえ自分の子どもでも自分とは別の人間であるという意識が明確です。 私は私、子どもは子どもといった感じです。 そして夢や目標が重視され、それを成し遂げることに幸せを感じます。
③それでは日本はどうなのかというと、東洋的な国と欧米的な国のちょうど中間くらいです。 個人主義的なのか集団主義的なのかを国別に調査した研究を見ると、日本はどちらでもなく真ん中くらいに位置しています。
④おそらく、戦後の教育がアメリカ仕込みの個人主義であることが関係していると思われます。』
3.ところで、本書中に次の記述がありました。
『①60代、70代、80代と年代が上がるにつれて幸福度が上がっていきます。 (中略)
②一般的には、定年退職することによってすることがなくなって幸福度が下ると思われがちですが、私たちが調査した結果はそうではありませんでした(イギリスの経済紙『The Economist』で紹介された調査でも同様です)。 (中略)
③歳をとって死が近づくにつれて幸せになっていくのは死の恐怖を受け入れて生きていけるように人間はできているからだともいわれています。 「老年的超越」と呼ばれ、研究も進んでいます。』
4.本書を読むきっかけになったのは、あるオンライン研修でした。 本書の著者である前野隆司さんが講師です。 その研修の中で前野さんは「老年的超越」について次のように話をされていました。
『90歳、100歳になると幸福度がさらに上がります。 ①自己中心性の減少、②寛容性の高まり、③死の恐怖の減少、④時間・空間を超越する傾向、⑤高い幸福感、が特徴です。』
5.2018年1月7日付け『The Asahi Shimbun GLOBE+』に「老年的超越」に関する記述があったので紹介します。
『「老年的超越」はスウェーデンの社会学者、ラーシュ・トーンスタムが1989年に提唱した概念。 85歳を超える超高齢者になると、それまでの価値観が「宇宙的、超越的なもの」に変わっていくという。
①思考に時間や空間の壁がなくなり、過去と未来を行き来する
②自己中心性が低下し、あるがままを受け入れるようになる
③自分をよく見せようとする態度が減り、本質が分かるようになる、といった特徴がある。』
6.先日、91歳になる母がお世話になっている老人ホームへ面会に行ってきました。 私が小さい頃の写真を持っていったら、嬉しそうに眺めていました。
ちなみにカミさんの母親も今月20日が101歳の誕生日です。 二人とも「老年的超越」で幸福感を感じながら毎日を過ごしているのなら、子どもとしてこれにまさる喜びはありません。
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2022.07.03 Sun
「ウクライナ戦争」の人類学
1.『第三次世界大戦はもう始まっている』(エマニュエル・トッド著 文春新書)を読みました。 『4「ウクライナ戦争」の人類学』から抜粋し、番号を付けて紹介します。
『①我々は、いま世界が〝無秩序〟に陥ったと感じています。 (中略) どの国がロシアの味方になり、どの国がロシアと対立しているのかを見ていくと、この戦争の表面上の〝無秩序〟の奥底に、〝人類学的な地図〟が存在し、しかもそれが極めて〝安定したもの〟であることがわかるのです。
②例えば、この地図からは、「核家族社会(父権性が弱い)」と「共同体主義的父権制社会(父権性が強い)」の間に位置する「人類学的な中間地帯」があることも見えてきます。 その代表例が「直系家族社会」のドイツと日本です。
③ドイツと日本は、「西洋」に共通する核家族社会よりも父権的な社会です。 人類学者として私は、ドイツと日本、特にドイツは「西洋の国(核家族社会)であるふりをしてきたのだ」と考えています。 あるいはドイツについては、「(核家族社会の西欧ではなく)より広義のヨーロッパに属している」と見ることもできるでしょう。
④いずれにせよ、ドイツと日本が「西洋世界」に所属している(=西洋の国であるふりをしている)のは、人類学的な基礎によるのではなく、ともに第二次世界大戦で敗北してアメリカに〝征服〟されたことによります。
⑤もちろん、ドイツと日本にとってメリットもあったかもしれませんが、〝人類学的な不一致〟が見られます。 ということは、人類学的に何らかの〝無理〟が生じているとも考えられるのです。
⑥ちなみに、このような例は他にもあります。 「家族構造という人類学的基底の決定力」は、絶対的なものではないとはいえ、かなり安定的なものです。 読者の方々には、この地図を参考に、ご自身でも、さまざまなことをお考えいただけたらと思います。』
2.1.の文章の前に2つの地図が掲載されています。
地図1は、ロシアによるウクライナ侵攻に対して、①「非難して制裁を科す国」、②「非難はするが制裁はしない国」、③「非難も制裁もしない国」、④「支持する国」を示したもので、それぞれ色分けされています。
地図2は、「家族構造における父権性(男性たる家父長の、家族と家族員に対する統率権)の強度」を示したものです。 ㋐「80~100%」、㋑「60~80%」、㋒「40~60%」、㋓「20~40%」、㋔「0~20%」に色分けされています。
①と㋔、④と㋐というように大体一致する色分けになっています。 つまり、①「非難して制裁を科す国」の大部分が、父権性の弱い核家族社会の国です。
3.2.①の「非難して制裁を科す国」に関して著者は次のように書いています。
『この地図からはっきり見えるのは、①「非難して制裁を科す国」は、〝世界の大半の国々〟ではなく〝一部の特定の国々〟であることです。 具体的には、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドといったアングロサクソン諸国と、ヨーロッパ諸国、それに加えて日本、韓国という広義の「西洋」で、そこにラテンアメリカ諸国が少しだけ加わっています。』
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