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震度7の生存確率

『震度7の生存確率』(仲西宏之・加藤和彦著 幻冬舎)を読みました。  本書から抜粋し、番号を付けて紹介します。  

『1.「正常性バイアス・麻痺」

①突然、大災害に直面して最善の行動をとるのは大変難しいことです。  多くの人は固まって動けなくなります。  (中略)  なぜ凍りついて動けなくなるのでしょうか。  その理由を災害心理学者のジョン・リーチは人間の脳の働きで説明しています。  

②人間は、通常の習慣的な行動をとる時には「刺激→反応」を意識せずに自動的に行なうようにできていますが、通常とは異なる事態に直面すると、この「刺激→反応」システムの調整がうまく機能しなくなるので、
・何もできなくなる人 70~75%
・我を失い泣き叫ぶ人 15%以下
・落ち着いて行動できる人 10~15%
になるといいます。  心理学者が「正常性バイアス」と呼ぶ状態です。

③震度7の地震に襲われると、人間は激しい揺れで物理的に動けなくなるだけでなく、人間の脳に備わっている機能が働き心理的にも動けなくなる可能性が高くなります。  (中略)  

④ところが物理的・心理的な原因以外にも人が動けなくなる理由があります。  それは、「麻痺」と呼ばれる状態に陥ることです。  アマンダ・リプリーの『生き残る判断 生き残れない行動』(光文社)では「特定の状況下では、炎上している飛行機、沈没しかけている船、また急に戦場と化した場所などでも、多くの人はまったく動きを止めてしまう。」と報告しています。  (中略)

⑤それでは、大災害に直面した時に起こる麻痺から抜け出すためにはどうすればよいのでしょうか。  リプリーは事前の準備とリーダーシップと言っています。  (中略)

⑥十分な訓練を受けた客室乗務員が避難時に乗客に向かって金切り声を上げるのは、リーダーシップを発揮するためと理解されていますが、それだけではありません。  大きな声を出すことで、乗客の知覚麻痺状態をさえぎることができるのです。』


2.「ゴブリン・ポーズ」

私たちが提唱する災害時にしゃがみ込む基本姿勢は、ゴブリン・ポーズです。  ゴブリンとは英語で鬼の意味です。  頭に乗せた拳が鬼の角のように見えるのでゴブリン・ポーズと名づけています。

①片膝をついてしゃがみ、
②後頭部に握りしめた両手の拳をしっかりと乗せ、
③顔を両腕で挟み、
④あごを引いて完成です。


3.「常に状況のシミュレーションを行なう癖をつける」

発災の瞬間を生き延びるためには、

①その瞬間、動けなくなる可能性が高いこと
②麻痺を解くために大きな声を出すこと
③大きな声を出しながらゴブリン・ポーズをとること
④「三角形の空間」※を瞬時に見極めること
・車の場合:ボンネット付近(フロント・タイヤの中心から少し後ろ)
・屋内:頑丈な柱の近く
⑤電車に乗車中の場合には、つり革などをしっかりつかみ倒れないこと

これらを瞬間的にできるようにし、自力移動と自由移動を頭に浮かべます。

こうした基本行動をとることを理解できたら、発災の瞬間のシミュレーションを行います。  事前の準備は発災の瞬間の麻痺を生きのびるためにも重要です。』

災害時の対処法を知っているか知らないかが、生死を大きく分けると思います。  その意味で「目からウロコ」の記述が満載でした。   一読をお薦めします。

※3.②の「三角形の空間」については2011年4月19日の私のブログ(タイトルは『三角形の救命スポット』)で取り上げました。  参考にしてください。

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宗教心・道徳・歴史

参議院議員の山田宏先生が書かれた『道を拓く男。 山田宏』(光明思想社)を読みました。  『教育の基礎は「宗教心」「道徳」「歴史」』の項から抜粋し、番号を付けて紹介します。

『私は、立派な子供を育てる基礎は三つあると思っています。  一つには「宗教心」、二つ目は「道徳」、三つめは「歴史」です。

1.①「宗教心」というのは、宗教教育というわけではなく、日本に古来から伝わる昔話を伝えることです。  最も良いのは『古事記』『日本書紀』に始まる日本の神話を教えることです。  それは簡単に言うと、自分自身という〝個〟を超越した存在がおられて、それに〝生かされている〟という思いです。

②自己を超越した存在というのは、ご先祖様であったり、お天道さまであったり、神様・仏様です。  自分の眼しか持ち合わせていなければ、どうしても自己を見る眼が甘くなってしまうのですが、先祖の眼、お天道さまの眼、神様・仏様の眼、つまり自分よりも高い存在、崇高な存在があって、常に自分を見つめていると意識させるのです。

③「お天道さまが見ているよ」「神様・仏様が見ているよ」・・・こういうことを子供に言い聞かせていたのが、日本の教育でした。  それがいつの間にか消え去ってしまいました。  「目に見えないものは存在しない」ということになってしまいました。

④目に見えるもので一番大事なものは何か。  それがお金になってしまったわけです。  拝金主義、そして目に見えるものしか信じられない唯物論が広がってしまいました。

⑤自分を超越した尊い存在があって、それに生かされているというのが「宗教心」です。  それが立派な人間を育てる一つめの要素であるわけです。

2.①次に「道徳」というのは、古今東西に伝わる偉人の話を伝えることです。  善悪とは何か。  高尚な生き方とはどういうものか。  素晴らしい生き方をされた人は、世界中にたくさんいます。  そうした生き方を知ることで、自らの人生が豊かに育まれるのです。

②道徳というのは、人間を正しく誘導するものです。  「正」という字を見れば分かるように、「一」という線を引いて、その下に「止」と書くでしょう。  人間はそのまま放置しておくと、欲に流されたり、易きに流されたりします。

③そこで流されないように「止」めておく「一」線、それが「道徳」なのです。  それが立派な人間を育てる二つ目の要素です。

3.最後に「歴史」というのは、もちろんわが国の歴史です。  それは自虐史観ではない。  そうしたイデオロギーを排した、日本の国の素晴らしさを伝えることです。』

昨年11月末に山田先生のパーティーがあり、そこでいただいた本です。  個人的には1.④の「拝金主義」「唯物論」の話に特に感銘を受けました。

そのパーティーで20年ぶりぐらいにお目にかかったのが、東孝さん(大道塾・塾長)です。  入門がほぼ同期なので、40年以上も前のことなどを思い出しました。

昨日は長年応援している稀勢の里が初優勝しました。  今日の白鵬戦に勝てば、19年ぶりの日本人横綱誕生になるのかな~?

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人類の進化の歴史

1.元旦の朝日新聞に霊長類学者・京大総長の山極寿一さんが『極大化した不安 共に過ごす時間を』という文章を書かれていました。  その中で人類の進化の歴史が取り上げられています。  箇条書きにすると次のようです。

①700万年前・・・アフリカでチンパンジーとの共通祖先から枝分かれした。  大型肉食獣に襲われる恐れのない樹上空間があり、実り豊かな熱帯雨林の中に住む。

②450万年前・・・サバンナへ進出した。  霊長類ヒト科の中でヒトだけが世界中に散らばるきっかけである。  サバンナは逃げ場がなく、さぞ不安だったであろう。

③60万年前・・・現代人と同じ脳の大きさになった。

④50万年前・・・狩猟具を持った。

⑤20万年前・・・大きな獲物を協力して狩るようになった。

⑥7万年前・・・言葉を得た。


2.本文から抜粋し、番号を付けて紹介します。

『①人類の歴史のほとんどは、大型肉食獣から逃げ隠れし、集団で安全を守り合う時間でした。  安全イコール安心です。  だから人間の体の奥底には、互いに協力しないと安心は得られないことが刻み込まれ、社会性の基礎になっています。  安心は決して一人では得られません。

②安心をつくり出すのは、相手と対面し、見つめ合いながら、状況を判断する「共感力」です。  類人猿の対面コミュニケーションを継承したもので、協力したり、争ったり、おもんばかったりしながら、互いの思いをくみ取って信頼関係を築き、安心を得る。  人間だけ白目があるのも、視線のわずかな動きをとらえ、相手の気持ちをよりつかめるように進化した結果です。

③脳の大きさは、組織する集団の人数に比例します。  構成人数が多いほど高まる社会的複雑性に、脳が対応しました。  現代人と同じ脳の大きさになったのは60万年前で、集団は150人程度に増えていました。  年賀状を書くときに思い出す人数、常に顔を覚えていて、信頼関係を持てる人の数とほぼ同じですね。

④言葉を得たのは7万年前ですから、言葉なしに構築した信頼空間です。  日頃言葉を駆使し、人間関係を左右していると思うのは、大きな間違いです。』

3.2の①に『人類の歴史のほとんどは、大型肉食獣から逃げ隠れし、集団で安全を守り合う時間でした。』とあります。  1の②にあるように450万年前からですから、ずいぶん長い時間ですね。  そのころの人類の反射神経や肉体能力は現代人とは比較にならないほど高かったと思われます。  もちろん危険を敏感に察知する能力も優れていたはずです。  それらの能力の劣る個体は大型肉食獣に食べられてしまうでしょうから。

朝練に取り入れている意拳、特に立禅を中心とした気の養成は、人類が本来は持っていたそれらの能力を少しでも呼び覚ますことにあると、私はとらえています。     

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改革

明けましておめでとうございます。  本年もよろしくお願いいたします。

今回は全日本柔道男子監督の井上康生さんが書かれた『改革』(ポプラ社)を取り上げます。  史上初の金メダルゼロに終わった2012年のロンドン五輪後に監督に就任された井上さんは、昨年のリオデジャネイロ五輪で1964年の東京五輪以来となる「全階級メダル獲得」を達成されました。

『試合展開のパターンが多いのが強い柔道家』の項から抜粋し、番号を付けて紹介します。

『①かっての日本には「組んだら(一本を取って)勝てる」という強烈な自負がありましたし、実際にそれで勝っていましたから、いわゆる「ポイント狙いの柔道」は、「柔道じゃない」「邪道だ」とされてきました。  しかし、もうそういう時代ではないのです。

②現実的には、これまで日本柔道がすすんでやってこなかったような、指導を取ったり、有効や技ありを狙ったり、指導を取られないためのディフェンス技術など、試合で勝つための細かいテクニックが必要になっています。  言い換えると、確実に勝利を収めるための、負けない技術です。  (中略)

③実際の試合は、最終的に一本を取ることを目指していても、そのための過程は必ずあって、多様な展開があります。  ですから、練習では、一本を取るイメージだけでなく、「あんな流れに持ち込みたい」「こんな方法でポイントを奪いたい」という試合の展開図を描きながら行う必要があります。

④試合展開のパターンをいくつも描ける人間は強いです。  さまざまなストーリーを描きながら、自分の柔道を展開していく想像力を持ち、たとえ指導による優勢勝ちであっても「どんなことをしてでも勝つ」という発想で日ごろから練習できているので、対応力があるのです。  そうした選手は、想像力のある究極のリアリストと言っていいでしょう。

⑤もっと言えば、世界の頂点に立つには、その柔道を刻々と変化させていく柔軟性と多様性が求められます。  近年、世界ランキングの関係で、日本人選手は一人につき平均年間3~4大会、多い選手だと6~7大会も国際大会に出場しています。  そのため、技や攻めパターンはすぐにライバルに研究、攻略されてしまいます。

⑥ですから、得意技や攻めパターンは絶えずブラッシュアップをしていかなければいけません。  大会ごとに新しい技や攻め手を繰り出し、対戦相手を常に幻惑させられるような選手でなければ、今の世界では生き残っていけないのです。

⑦我々は、あくまでしっかり組んで一本を狙う柔道を追求していきます。  しかし、それだけでは現実と乖離していますので、一本をベースに、指導を取ったり、有効を奪ったりといった技術を使い、確実に勝利を収める柔道も並行して追求していきます。

⑧それが、「強いこと」と「勝つこと」の両方を求められている日本柔道だと思います。』

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