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極真空手の稽古と実行機能

『科学的エビデンスにもとづく 100歳まで健康に生きるための25のメソッド』(ルイージ・フォンタナ著 東京大学出版会)を読みました。  「直観力・・・知性の最高のかたち」の項から抜粋し、番号を付けて紹介します。

『1.①直観力を高めることは、運動トレーニングと同じ法則に従う。  つまり、自らの能力を使えば使うほど、その能力が強化される。  唯一異なる点として、心・精神は、トレーニングによって無限に高められるということが挙げられる。  トレーニングによって、深い自尊心と内なる自信が得られる。

②それは、仕事における成果・経歴、富と権力の蓄積、もしくは新しい伴侶を見つけることなどによって得られる一種の自信のようなものではない。  内なる強さや直感的な精神を解き放つ不屈の精神のことである。


2.①定期的に武術・武芸もしくはヨガを練習している子どもたちは、一般的なスポーツだけを練習している子どもたちに比べて、注意深く、よく気づき、規律があり、また、攻撃的ではなく、自尊心・自己肯定感も高いという研究結果がある。

②ヨガや武術・武芸の練習を行うことで、実行機能(複雑な課題の遂行に際し、課題ルールの維持や情報の更新などを行うことで、思考や行動を制御する認知機能のこと。)が強化されるが、通常の身体トレーニング(例:ランニングやサイクリング)では、そのような効果がみられないという結果も報告されている。

③実行機能が発達・成長することで、以下のような能力も向上する。

㋑達成すべき一連の目標に向けて、行動を計画し、実行する能力

㋺自発的に衝動を抑制したり、関係のない情報を遮断したりし、自分の意識・注意を重要な情報へとすぐに向ける能力

㋩課題の遂行を妨げる内的および外的な刺激を受け入れることなく、長時間にわたって、その課題に対する集中力を維持する能力

㊁求められる状況や課題の変化に合わせて、自分の行動を変える能力


3.①実行機能は、あらゆる問題解決活動・・・もっとも難しく、理論的なもの(数学的な分析もしくは哲学的な文章の理解)から社会的なもの(人間関係)まで・・・においても欠かすことができない。

②このような技術を身につけた人は、自らの人生における目標・ゴールを設定し、より多くのエネルギーとするどい集中力によって、その目標を達成できるだろう。  (中略)


4.①私が医学部の学生だったとき、ハタ・ヨガと合気道を毎週、数時間練習していた。  自分の感情を上手くコントロールし、細部にまで細心の注意を払いつつ、必要な部分に集中する能力を身につけることができた。  

②このような特性は、試験に合格するのに役立っただけではなく、医師そして科学者としての経歴を高める際の強力な武器となった。  それは、まるで、人生をどのように送るべきかということを指し示し、そして私に自信を与えてくれる貴重な「内なるコンパス」を手に入れたかのようであった。』

翻訳本なので、若干言い回しがむずかしく感じますが、本項を読むと、「極真空手の稽古は子どもたちの今後の人生にとって大きな武器となる」とも言えそうです。

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個人練習の重要性

『内向型人間の時代』(スーザン・ケイン著 講談社)を読みました。  「3章 共同作業が創造性を殺すとき」から抜粋し、番号を付けて紹介します。

『1.偉大な業績をあげる人は、いったいどのようにしてそれをなし遂げるのか。  心理学者のアンダース・エリクソンはチェスやテニスやクラシック・ピアノなど広範囲な領域でこの問いの答えを模索した。

2.①エリクソンが同僚らとともに実施した有名な実験がある。  まずベルリン音楽アカデミーの教授の協力を得て、バイオリン専攻の学生を三つのグループに分けた。

②第一のグループは、将来世界的なソリストになれるほどの実力を持つ学生たち。  第二のグループは、「すぐれている」という評価にとどまる学生たち。  第三のグループは、演奏者にはなれず、バイオリン教師をめざす学生たち。  そして、全員に時間の使い方について同じ質問をした。

③その結果、グループごとに驚くべき違いがあることが判明した。  三つのグループが音楽関連の活動にかける時間は同じで、週に50時間以上だった。  課題の練習にかける時間もほぼ同じだった。

④だが、上位二つのグループは音楽関連の時間の大半を個人練習にあてていた。  具体的には1週間に24.3時間、1日あたり3.5時間。  それに対して第三のグループが個人練習にあてる時間は、1週間に9.3時間、1日あたり1.3時間だけだった。

⑤第一のグループの学生たちは、個人練習をもっとも重要な活動と評価していた。  すぐれた音楽家たちは・・・たとえ集団で演奏する者であっても・・・個人練習が本当の練習であり、集団でのセッションは「楽しみ」だと表現する。

3.①エリクソンらは他の分野についても、ひとりで練習したり学習することが同じような効果をもたらすと発見した。

②たとえば、チェスの世界でも「ひとりで真剣に学ぶこと」がプロのチェスプレーヤーになるスキルを得るかどうかの指針になる。  (チェス選手の最高位のタイトル)グランドマスターは一般に、修業時代の10年間に5000時間という途方もない時間をひとりで指し手の研究をするために費やす・・・中級レベルのプレーヤーの約5倍にものぼる時間だ。

③ひとりで勉強する学生は、グループで勉強する学生よりも、長年のうちに多くを身につける。  チームスポーツのエリート選手もまた、驚くほど多くの時間を個人練習にあてている。』

自己流や我流による悪い癖をつけないために、良い指導者のもとでの集団練習は大切です。  しかし、上の2.⑤に書かれているように、世界のトップ選手になるためには個人練習の時間こそが最重要となります。

いつも選手稽古で話すのですが、トップ選手になるための最高の指導者は自分自身です。  「トレーニング方法の創意工夫や技術の創意工夫に関して個人的に時間を費やすこと」が頂点に立てるかどうかを決めているような気がします。

城西では過去に5人の全日本チャンピオンが出ましたが、私の指導を受けただけでチャンピオンになった者は一人もいません。

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勝利より大切なもの

6月6日付け朝日新聞デジタルの連載「勝利至上主義を考える」のタイトルは『「僕を投げたくない?」   現役五輪王者が訴える勝利より大切なもの』でした。  抜粋し、番号を付けて紹介します。

『①柔道男子73キロ級で五輪2連覇を遂げた大野将平(30、旭化成)は焦燥感を抱えている。

②「それだけでは何も変わらない」  全日本柔道連盟が「行き過ぎた勝利至上主義が散見される」として、小学生の個人戦の全国大会を廃止したことを受けて、そう感じた。  「10年後じゃない。  いま、スピード感を持って何かをやらなければいけない」  柔道人口減少にどうすれば歯止めがかけられるのか。  競技の普及は「強くなった人間の責任」とまで言う柔道家は、旧態依然とした業界の変化を訴える。

③大野は小学生の時、「めちゃくちゃ弱かった」そうだ。  今回廃止された全国大会ではないが、毎年5月に開催される団体戦の全国少年柔道大会には小4の時から出場。  女子に投げられていたという。

④兄の後を追って中学入学と同時に山口県から上京。  柔道私塾「講道学舎」入門時は、同級生の中でも実力は下から数えた方が早かった。

⑤指導者には恵まれた。  「基本に忠実な指導をしてもらった。  変な風にいじられなかった」。  講道学舎の恩師、持田治也氏は試合の勝ち負けよりも、小さい選手が大きな選手に立ち向かっていく、挑戦する姿勢を大事にした。  「全然、勝利至上主義ではなかったですね」

⑥中学まで背負い投げなどを得意としていたが、投げ切る自信を持てず、指導などでポイントを取る柔道をしていた。  持田氏に「お前の柔道はかっこわるい。  相手の脇を持って大外刈りをやれ」と勧められたのは中3の終わり。  その助言が、世界の頂点を上り詰めた大野の柔道の原点となった。

⑦だからだろう。  「小中高までは成績にこだわる必要はないし、負けていい」と強調する。  高校の時に同世代で強かった選手は、現役トップにほぼいなくなった。

⑧「小さい時から王者で居続けられる人は本当に一握りしかいない。  勝ち負けよりも、いい柔道をしていた方が将来化ける。  勝負にこだわるのは大学くらいからでいい」

⑨大野が考える「いい柔道」とは。  「しっかりと2本(の両手)で組み、投げ合う柔道」。  その柔道を大舞台で表現するために、抜きんでた稽古の量と質で圧倒的な力を蓄えてきた。

⑩「日の丸を背負って戦う以上、勝つことは使命。  緻密(ちみつ)さにこだわることも必要です。  でも、変わったルールを追いかけるのではなく、変わらない柔道の本質に力を入れるべきだと思う」

⑪日本代表の合宿では、日々変化していくルールや潮流にどう対応するべきかに時間を割いた。  ただ国際大会で勝つために必要な細かな技術は、大野にとってはあくまで枝葉に過ぎない。  子どもの頃から「いい柔道」に迫るための基礎を培ってきたことがリオ、東京での連覇につながった。

⑫「すぐ目先で成果や結果を出したいとなると、小手先の技術に走ってしまう。  そうすると、互いの強みを消し合う引き算の柔道になる」

⑬リオ以降、実力者の大野に対して、国内外の多くの選手が真っ正面から組み合うことを避けようとする。  「僕は最近ずっと、鬼ごっこをやっている感覚なんです。  誰も正面から衝突してこないで、逃げる相手をずっと追いかけている。  そんな柔道はつまらないし、子どもたちがやろうとも思わない」  (中略)

⑭「僕の柔道を見て、子どもだけでなく色々な人が柔道をやりたくなったとか、人を投げてみたくなったとか。  そういう風になればいい」

⑮大野はこれまでも柔道教室などに参加してきたが、今は柔道をやったことのない人も楽しめるような取り組みを充実させたいと考えている。  「僕のことを投げてみたくないですか?   内股で宙に浮いてみたくないですか?   そういう体験をしたい方って結構いると思うんです。  そういう機会を考えたい」  (中略)

⑯「勝つためにやるべきことと、強くなるためにやるべきこと。  その二つを知っている自分だから、伝えられることがある」  (中略)

⑰「今の子どもたちには本質を追いかけてほしいし、正統派の柔道に憧れてほしい」。  今の一番のモチベーションは子どもたちに「大野将平のような柔道をしたい」と言われることなのだという。』

上の③で『大野は小学生の時、「めちゃくちゃ弱かった」そうだ。』と書かれていますが、現在の城西のトップ選手で小学生の時から強かった選手は少ないような気がします。  やはり、あきらめずに長く空手を続ける中で、勝ったり負けたりして徐々に強くなるものです。

来週の日曜日は内部試合です。  出場する以上、勝利を目指すことは大切だと思います。 でも、たとえ負けたとしても将来のもっと大きな勝利につながっている、ということは忘れるべきではありません。

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