fc2ブログ

| PAGE-SELECT | NEXT

聞く力

『聞く力』(阿川佐和子著 文春新書)を読みました。  「1 聞き上手とは」から抜粋し、番号を付けて紹介します。

『①レスリングの浜口京子選手にお会いしたのは、彼女がアテネ五輪に出場した直後。  準決勝のときに電光掲示板にポイントが正しく表示されず、浜口選手が延長戦だと思っているうちに、負けの判定が下される、というアクシデントのあったあとでした。  結局、その五輪では三位決定戦に勝利し、銅メダルを獲得できたのですが、そのインタビューではなんといっても、あの不可解な判定に焦点が絞られます。  

②あの瞬間、浜口選手はどう思ったのか。  悲しかったのか、悔しかったのか。   涙は出なかったのか。  ヤケを起こしたくならなかったのか。  なにより、どうやって、その後の三位決定戦までに、気持を切り替えることができたのか。  (中略)

③実際、浜口選手もあの瞬間、何が起こったのか理解できないほどボーッとして、とりあえず審判に抗議をしてみたものの、取り合ってもらえず退却する。   その後、選手村に戻り、六時間後の三位決定戦までに気持の切り替えをしなければいけないと頭のどこかで気にしながらも、「なんでこんなことになったんだろう」という思いから抜けられない。  そこで、浜口選手は携帯で家族に電話をするのです。

④「母が電話に出て『京子は世界 (世界選手権)でゴールド取った女なんだぞ。  堂々と戦いなさい!』と言われた瞬間、『あ、そうだ。  こんなところで落ち込んでいる場合じゃない』と目が覚めました」

⑤さらにお母さんは、「私は今まで勝てって言ったことはないでしょ?   でも、今回は勝ちなさい。  銅メダルを取りなさい」と。  そして同時に「お前はよくやった」と娘を評価する。  その一言で、それまでただ呆然とするだけで泣くこともできなかった浜口選手が初めて涙を流し、試合場に戻ったときは、「あ、また試合ができるんだ!   嬉しい!  と、笑顔になるくらい、元気が出てきたんです」。  (中略)

⑥もし私が母親の立場にいたとして、自分の子供が京子ちゃんのように、どうしていいのかわからなくなっているときに、いったいどんな言葉をかけるだろうか。

⑦「気にするな」と言ったら、「お母さんにとっては他人事だろうからそんなこと言えるんでしょうけど、そんな簡単にはいかないのよ。  わかりもしないで勝手なこと言わないで」と反論されるかもしれない。  「頑張りなさい」と肩を叩けばきっと、「もうじゅうぶん頑張ってるわよ。   そんなありきたりな言葉しか出ないわけ」と子供が逆に怒り出すかもしれない。  ああ、とても私には、最適な言葉を選ぶことはできないだろうなあ......。

⑧そう思うと、京子ちゃんのお母さんが選んだ言葉が、どうして「それ」だったのか。  そして、その母親の言葉が、どうして京子ちゃんの胸をピンポイントで射止めたのか。  まるで宝くじのように当たる確率の低い難問に思われて、「お母ちゃん、お見事!」と拍手を送りたい気持になりました。

⑨でもきっと、それは互いに互いのことを熟知して、深くて大きな愛情が通じ合っているからこそ、為せる業だったのだと思います。』

普段の稽古や試合のときなどに選手に声をかけることがあります。  ことば数が多いから思いが通じるわけではありません。  たった一言が選手の力を引き出した経験も持っています。

20代前半に国家試験の勉強をしていたときに、自律神経失調症を患いました。  勉強を中断しようとした私に、母親から「中断せずに休み休みでもいいから勉強を続けたら」と声をかけられました。  今振り返ると、あのとき中断したら再開しなかったかもしれません。




TOP↑

チームづくりは時間との戦い

ラグビーの元・日本代表キャプテン、横井章さんが書かれた『継承と創造』(ベースボール・マガジン社)を読みました。  「チームづくりは時間との戦いである」の項から抜粋し、番号を付けて紹介します。

『①「時間」には限りがあります。  だから目標とする試合や大会までの限られた時間の中で、強敵に勝つための自分たちのラグビーをつくり上げるマネジメントが大事になります。  どれほど素晴らしい戦術を考案したとしても、ターゲットの試合までに完成しなければ意味がありません。

②そして現代のチームと選手は、その「時間」が極めて短くなっています。  (中略)  ですから、戦術戦略を絞り込み、無駄な練習を極力省いて必要最小限のメニューに集中的に取り組む効率性が大事になります。

③時間が無限にあるのなら、いくらでも練習して強くなることができます。  しかし、大半のチームは、そうした環境にはないはずです。  そうであれば、限られたわずかな時間の中でやりくりを工夫し、特化した戦い方をミスなくできるように磨き上げるしかありません。

④(中略)  自分たちができること、自分たちがしなければならないことを理解し、必要最小限のことに焦点を絞って、そこにすべての時間をかけて徹底的に強化しなければなりません。  持たざるチームが持つチームを倒すには、そうして最短距離で差を縮めていくしかありません。  逆に言えば、ラグビーで強いチームをつくるためにはそれだけ時間がかかるということです。  (中略)

⑤本当に必要なことを峻別し、どんな相手に対しても100パーセント遂行できるよう、徹底的に強化して磨き上げなければなりません。  その道筋をつけることがコーチの仕事であり、コーチングの醍醐味であると私は思います。  (中略)

⑥時間は万人にとって平等です。  だからこそ他人より一歩先んじるためには、「いかに時間を使うか」という工夫が鍵になります。  チームで集まれる時間が限られていても、それ以外の時間に1人でトレーニングすることはできます。  

⑦家にいる時間でも、もっと言えば通学の時間でもやれることはいくらでもあります。  そうやって選手1人1人が成長しつつ、全員で集まれる時はチーム練習に特化して取り組むようにすれば、同じ時間でも成長度は全く違ってきます。

⑧そしてそのためには、個々の選手が自分に必要なものを理解し、何をしなければならないかを考えられるようにならなければなりません。  (中略)  時間がないことを理解し、自分なりに考えて行動できるよう選手を促していかなければいけません。  そうしたアプローチが、今の指導者には求められていると思います。』

私が指導している選手稽古の時間は長いほうだと思います。  それでも、指導したいことを全て盛り込むには時間が足りない、といつも感じています。

ちなみに道場に掲げている「城西のチームカルチャー」は、①どこよりも創意工夫する、②どこよりも練習する、③どこよりもそれらを楽しんでやる、の三点です。

TOP↑

思春期不器用

7月12日の日経新聞夕刊に『「思春期不器用」知っておこう』という記事が載っていました。  番号を付けて紹介します。

『①身体が大きく成長する思春期に、スポーツの成績が一時的に落ちるケースがあるという。  「スランプか?」と悩む子どもや保護者もみられるが、スポーツトレーナーの遠山健太さんは「思春期不器用」という現象の可能性を指摘する。  練習量を増やすとけがのリスクがあり、注意が必要だ。  知っておくべきポイントを助言してもらった。

②「なかなか調子が上向かない選手がいるんだ」。  全日本スキー連盟のフリースタイルスキーチームでトレーナーを務めていた2010年代、ジュニア選手のコーチからこうした相談を持ちかけられた。  スキー操作やエアの技術の習得が進まないという。

③練習へ向き合う姿勢は真剣で、生活習慣にも変化はないが、競技成績が落ちていく。  コーチも本人も「原因が分からない」という。  持久力や柔軟性、筋力についてテストしたところ、以前と比べ伸びがみられず、むしろ数値が下がった項目もあった。

④それまでジュニア選手の指導経験が少なく、私も困惑したが、調べてみると発育発達学の分野で「思春期不器用」と呼ばれる現象と似ていると分かった。  体への負荷が少ない柔軟性や持久力のトレーニングに切り替えたところ、自然と高いパフォーマンスを発揮できる状態へ戻っていった。

⑤思春期不器用は、身長が急速に伸びる「成長スパート期」に身体のバランスがとりにくくなったり、動きがぎこちなくなったりする現象を指す。

⑥海外では1930年代から様々な調査・研究が行われてきた。  日本でもジュニア時代からのトップ選手育成が盛んになり、関心が高まりつつある。

⑦原因として ▽体の急速な発達に感覚器の適応が追いつかない ▽骨が伸びることで柔軟性が低下する――といった指摘がある。  過去の研究では、あるグループへの調査で成長スパート期に運動能力が停滞することが確認された。

⑧一方、詳しい原因は分かっていない。  同様の現象が明確にはみられなかったとする指摘もある。  メカニズムの解明にはさらに時間がかかるだろう。

⑨子どもがスポーツ教室や部活動に打ち込んでいる保護者に留意してほしいのは、思春期不器用の現象は練習量を増やすことでは解消されないという点だ。

⑩講演などで、子どもがサッカーや野球のスポーツ少年団に入っている保護者から「急に成績不振になったので、居残りで猛練習している」 「急にレギュラーから外され、本人がひどくふさぎ込んでいる」といった声を聞くことがある。

⑪運動能力の伸び悩みが成長スパート期と重なっている場合、思春期不器用の可能性がある。  この場合に負荷が強すぎるトレーニングをすると、まだ未熟な骨や関節を負傷する恐れが強まる。  運動量や時間を増やしたり、強度を高めたりするのは禁物だ。

⑫また思春期不器用は成長スパート期が終われば自然と解消される。  スポーツの成績が一時的に伸び悩んだとしても精神的に大きく落ち込む必要はない。  保護者は「いずれ上向くよ」と長い目で見て子どもに寄り添ってほしい。

⑬思春期不器用の可能性があるかどうかを把握するためには、家庭で「成長曲線」と呼ばれるグラフを作る方法が効果的だ。  定期的に身長の伸びを線で結んだグラフで、傾きが最大の時期が成長スパート期にあたる。  この時期に不振に陥れば「もしかしたら」と原因を探りやすい。

⑭一方、日本では本格的に研究が始まって間もない分野のため、部活動やスポーツ少年団の指導者にも広く伝わっているとは言いがたい。  部活動の顧問を務める教員向けの講演でも思春期不器用について説明すると「なんですかそれは」と驚く声が多い。  

⑮話をうかがうと、チームの中心だった選手が不調になり「なぜだろう」と首をかしげる経験をした指導者は少なくないようだ。

⑯思春期不器用の子どもがいる可能性も踏まえて、部活動やスポーツ少年団では発育状況に応じ、全体練習に加え個別のトレーニングメニューを取り入れてほしい。  全員が同じ内容の筋力トレーニングをした場合、一部の選手には負荷がかかりすぎている恐れがある。

⑰部活動に携わる教員からは「一人ひとりの状況に応じてメニューを組むのは難しい」という声もよく聞かれる。  指導方法に悩んだ場合には、日本スポーツ協会公認のアスレティックトレーナーの資格保有者に相談するのもいいだろう。

⑱思春期不器用の影響かどうかは不明だが、思春期の子どもたちはスポーツ中の外傷・障害が多い傾向がある。  中には長期的に競技に支障をきたすケースもある。  生涯にわたりスポーツを楽しむためにも、子ども時代の運動は安全性を最優先としたい。』

空手の指導をするようになって、もうすぐ44年になりますが、「思春期不器用」という言葉を初めて知りました。

TOP↑

| PAGE-SELECT | NEXT